新訳『カラマーゾフの兄弟』完結記念シンポジウム「ヴィヴァ!カラマーゾフ」 参加
昨今、光文社古典新訳文庫に限らずロシア文学の新訳が活況を呈しているとのことで、作品自体の魅力とともに「新訳」という点も大きいのではないかということで今回のシンポジウムが企画されたようです。ロシア文学初心者の中の初心者である僕としては初めて知ることばかりで勉強になりました。また文学作品を「翻訳」する・「新訳」するということはどういうことなのかという点についての話が興味深かったです。
※要注:以下のものは、私が見聞きして印象に残ったことを書き留めたものであり、発言者の真意を正確に反映しているとは限りません。
第一部:ロシア文学古典新訳を語る―翻訳家大集合
第一部では光文社古典新訳文庫にてロシア文学を新訳された方々によるパネルディスカッションが行われました。最初にシンポジウムの企画者である沼野充義氏から挨拶があったのですが、新訳の意義のひとつとして原作を母語とする人はずっとオリジナルの古い言葉のまま読まなければならないが原作が母語でない人は新訳という新しい・現代の言葉で読み直すことができるということを述べられていました。
登壇者はゴーゴリ『鼻/外套/査察官』を新訳された浦雅治氏、トルストイ『イワン・イリイチの死/クロイツェル・ソナタ』を新訳された望月哲男氏、ドストエフスキー『地下室の手記』を新訳された安岡治子氏、トゥルゲーネフ『初恋』を新訳された沼野恭子氏の4名でした。
- 浦雅治氏はゴーゴリ『鼻』を落語調で新訳。
- 望月哲男氏はトルストイの短編作品を新訳。
- トルストイの短編作品のイメージは説教臭いが思想を媒介に世の中を変えようという使命感のような熱いものがある。説教風にならないようにかつ熱さや感情が伝わるように翻訳。
- 翻訳は原作と向き合い自分が体験したことを言葉にするしかなく、「新訳だから」と意識しなくても他の人と同じことはできない(異なるものになる)。
- 安岡治子氏はドストエフスキー『地下室の手記』にある「2×2=4は死の始まり」というフレーズがご自身が扱ってきたロシア文学作品と通底するものがあると感じていたため翻訳。
- 沼野恭子氏はすでに多くの文学者が翻訳しているトゥルゲーネフ『初恋』を新訳。
- トゥルゲーネフ『初恋』は、初老の男たち三人が自分の「初恋」について語り合う場面で、口下手な一人が初恋をノートにまとめたものを読み上げる部分がほとんどの内容を占める。
- これは他者に「語って聞かせる」ための物語。説明調ではなく柔らかい話し言葉を選択。
- トゥルゲーネフは作品中で「父親への愛」を表現。ドフトエフスキーのテーマは「父殺し」。トルストイは「家父長制的な父」を理想としている面があり、チェーホフの作品は「父親不在」。19世紀に活躍した作家たちの「父」の扱いが興味深い。
第二部:徹底討論―ここがすごい『カラマーゾフの兄弟』
- 新訳を出す際に先行者たちの訳とどう向き合ったか?
- 『カラマーゾフの兄弟』は次の長編小説とあわせた二部構成の作品とも言われている。ドフトエフスキーはそれを書かずに死んでしまったが「続編問題」はどう考えるか?
- 『カラマーゾフの兄弟』を翻訳してきて感じたことは?なぜヒットしたのか?
- ドフトエフスキー作品に接していかに「傲慢さ」が人間にとってよくないかを再認識。
- 現代の時代状況を受け止めるだけの奥行きがロシア文学にはあるのでは。19世紀の「ロシアの苦悩」が現代の苦悩を引き受ける面があるのでは。
※要注:以上のものは、私が見聞きして印象に残ったことを書き留めたものであり、発言者の真意を正確に反映しているとは限りません。
新訳本抽選会
さあ亀山郁夫氏訳の『カラマーゾフの兄弟』を帰りに買って帰ろうかと思っていたら、シンポジウム終了後に登壇者各氏が新訳された書籍を各5名へプレゼントするという企画がありました。希望者が多くて当たらなくてもやはりどうせなら『カラマーゾフの兄弟』だろうと思い抽選券を投じたところ、な、なんと当選! 亀山郁夫氏訳の光文社古典新訳文庫『カラマーゾフの兄弟』全5巻をいただいてしまいました。しかも亀山氏のサイン入り。マジでうれし過ぎです。今年の夏の課題図書にしたいと思います。
- cafe MAYAKOVSKY(亀山郁夫氏のblog)
- 2007-07-23 Da83. Viva! Mitya!
http://stavrovsky.blog.ocn.ne.jp/cafe_mayakovsky/2007/07/da83_viva_mitya.html
- 2007-07-23 Da83. Viva! Mitya!
- お茶をどうぞ
- Mの日記@古本T「たまにはストレート・ノー・チェイサー」
- シンポジウムに行ってみた
http://tmasasa.exblog.jp/7175788/
- シンポジウムに行ってみた
- 『カラマーゾフの兄弟(1)』 ドストエフスキー,亀山郁夫(訳)
- 『カラマーゾフの兄弟(2)』 ドストエフスキー,亀山郁夫(訳)
- 『カラマーゾフの兄弟(3)』 ドストエフスキー,亀山郁夫(訳)
- 『カラマーゾフの兄弟(4)』 ドストエフスキー,亀山郁夫(訳)
- 『カラマーゾフの兄弟 エピローグ別巻 (5)』 ドストエフスキー,亀山郁夫(訳)