『丹下左膳餘話 百萬兩の壺』鑑賞

丹下左膳餘話 百萬兩の壺2005年にDVD化された山中貞雄監督の『丹下左膳餘話 百萬兩の壺(1935)』を観ました。
京都カフェオパールの店主さんによると、当作品は「観てゐないと話にならない、といふ映画」のひとつらしく、でも実はようやく最近観られたとのことで(笑)サイトにレビューを書かれており、それに誘われて僕も観てみた次第。


話は百萬両の地図が塗り込められているという壷を巡るドタバタ劇。1935年の作品ということで、当然ですが登場する役者さんの表情から立居振舞から言葉使いまで現在とはかなり違います。そこには今の僕らが見かけることが少なくなった(と想像的に思える)昔の人々の風情が溢れておりました。
「俺は絶対に(帰り道の客を)送らない」と言っていたのに次のシーンで送っている左膳(笑)。「私は子供が大嫌いなんだよ」と言っていたのに次のシーンで孤児が可愛くてたまらないらしい矢場の女将(笑)。孤児がいじめられているから寺子屋に行きたくないと駄々をこねると「俺らには関係ない」と言いつつ孤児が気になって仕方がない左膳&女将(笑)。そこで示されているのは世間のもちつもたれつの善意と相互扶助があった時代の人に対する優しさ。観る者皆が共有できるような悲喜交々。


大正末期から昭和初期にかけて興隆したといわれる日本映画の「モダニズム」。その当時の映画における共感・感動・カタルシスは、今に生きる者が想像的に昔(のよさ)を想起するレトロスペクティブという面もあるのかもしれませんが、時代は変わっても「人が生きていく限り変わらないもの」が表現されているようにも感じ(たくなり)ました。個人的には大変面白く観てよかった作品でした。
山中貞雄監督の作品で現在見れるのは本作品を含め3本のみだそうですが、ぜひ他のものも観てみたいと思います。