『身体の言い分』刊行記念 内田樹+池上六朗トークショー参加

身体(からだ)の言い分―Right time,right place青山ブックセンターで開催された『身体の言い分』刊行記念 内田樹+池上六朗トークショーに参加してまいりました。会場はいつものABCのイベントの来場者よりはちょっと年齢高めの方もおられ、老若男女を問わず様々な方々がおられました。内田氏の身体論・医療関係者との対談本は幅広い層に読まれているのを確認。
初めてウチダ先生のお姿を拝見したのですが、僕が抱いていたイメージよりもけっこうごっつい体躯でした。そういえば武道をされていると伺っていますが、勝手に痩せた蕭然とした人類学者をイメージしておりました。トークはさすがにうまいなぁと思わされること度々。
しかしそれより衝撃だったのは池上六郎さん。僕はすでに『身体の言い分』を読んでいたのですが、そしてそれを読んだ限りでもスゴい方だとは思っておりましたが、実際お話を伺ってみると、その懐の深さ、話の内容のスゴさに観客のみならずウチダ先生も圧倒されっぱなしでした。
思いつくままにトークされたことを列挙してみます(要注:私の記憶なので、発言者の発言意図は反映していない可能性があります)。

  • 医療の世界ではEBM(Evidence Based Medicine)つまり「科学的な」「客観的な」医療行為でなければならないとしたイデオロギーが支配的であるが、そのように科学化・客観化できる医療知識の外側には膨大な暗黙知があり、それらとともに治療行為が行われてきた。そいういうものを無視してEBMのみで行われる医療行為には危機感を覚える。
  • 人間の身体の挙動は自然なものではなく、極めて文化的で構築的なものであるので、普遍的な医療という科学以外に、その文化の身体に合った医療というものをもっと信頼してもよい。
  • 外の基準で健康を測るのも大事ではあるが、自分の体が最も楽になる状態をみつけて、外の基準で言うこところの病気と共存して生きていけばよい。無理に外の基準に合わせようとするとかえってよくならない。
  • 戦争時代を経験されており元航海士という経歴の池上さんは、世界のあらゆる国々に行かれ、そこで様々なことを経験されたとのことで、日本の文化の中ではとんでもないと思われたり話しても冗談だと思われるようなことも世界では平気で起こる、ということを体験上理解されている。世の中では出鱈目なこと、不条理なことは平気で起こるものである、とのこと。
  • 先日の選挙のお話もちらほら。ウチダ先生は毎日新聞に書いた評論の趣旨の話をしていた。池上さんは、戦前を体験されているので、選挙の結果、のちに世の中が混乱したとしても「ダメだったらまたゼロに戻るだけ」との趣旨の発言をされていた。外形的な基準に合っているかいないかでオロオロするのではなく、自分がよいと思う状態を信じて好きにやっていればよい、とのこと。池上さんが仰られると、説得力があった。

ウチダ先生を初めて見たのも印象的だったけど、僕個人的には池上さんのスゴさに圧倒されました。泰然自若とは池上さんのことを言うのだと思います。「保守」思想とはこういうものなのではないかと感じさせられました。

【追記 9/15】ウチダ先生のBlogに当日のトーク以外のことがアップされていたので加えときます。