『お引越し』鑑賞

お引越し デラックス版
いろんな人がいいと言っていて、いつか見ようと思っていたけれどずっと見る機会を逸していた、というか自分の怠惰で見ていなかった故・相米慎二監督『お引っ越し』(1993)を見る。
蓮實重彦氏がトークで、相米監督は(カットを切らない)ワンシーン・ワンショットがすばらしいということを語っていて、その例として『ションベン・ライダー』と本作『お引越し』が紹介されたが、この作品には本当にワンシーン・ワンショットが多い。それは俳優を役に追い込むことでもあり、台詞や登場人物の心情などに切迫感を見事なまでに与える。カットを多く切ればNGも少なく編集もしやすいかもしれないけれど、そしてそれはそれでいいところがあるけれど、ワンシーン・ワンショットを監督が選択していること、役者が見事に演じることをもっと評価していいと思う。
内容は両親の離婚話をきっかけに少女(11〜2歳の田畑智子)の自明性に亀裂が入り、混乱し、ある経験を経ることで大人になっていくという通過儀礼モチーフ。少女は両親を仲直りさせるべく旅行に連れて行くが、両親には両親のどうしようもない想いがあることに気付き、自分がよき家族イメージにこだわり過ぎていることに気付き*1、「大人」となって現実に再着陸する。印象的だったのは旅行の行き帰りの電車内の場面とエンディングロールが流れる場面。少女はそれまで「与えられる存在」であった。旅行に行く電車内では一人でお菓子を食べて母親に渡さない。しかし通過儀礼を経た少女は「与える存在」へと変貌する。旅行から帰る電車内では母親とお菓子を分け合う場面が差し込まれる。そしてエンディングロールが流れる場面ではまさに彼女はいろいろな人々にいろいろなものを「与える存在」として描かれる。個人的には「成熟」とは何かということを考えさせられた本当にすばらしい作品だった。必見。

*1:11歳でそれに気付くのはなんともスゴい