北一輝「日本改造法案大綱」をちょっとだけ読んでみる

自分は天皇なんてまったく信じていないのに天皇の聖性を利用して動員しようとする「あえてする天皇」という観点から読むと確かに面白い。

日本改造法案大綱(全文 ひらがな版):http://homepage2.nifty.com/Bokujin/shiryou1/Nihonkaizou2.html

日本の国体は三段の進化をなるをもって天皇の意義また三段の進化をなせり。第一期は藤原氏より平氏の過度期に至る専制君主国時代なり。この間理論上天皇はすべての土地と人民とを私有財産として所有し生殺与奪の権を有したり。第二期は源氏より徳川氏に至るまでの貴族国時代なり。この間は各地の群雄または諸侯がおのおのその範囲において土地と人氏とを私有しその上に君臨したる幾多の小国家小君主として交戦し聯盟したるものなり。したがって天皇は第一期の意義に代うるに、これら小君主の盟主たる幕府に光栄を加冠するローマ法王として、国民信仰の伝統的中心としての意義をもってしたり。この進化は欧州中世史の諸侯国神聖皇帝ローマ法王と符節を合するごとし。第三期は武士と人氏との人格的覚醒によりおのおのその君主たる将軍または諸侯の私有より解放されんとしたる維新革命に始まれる民主国時代なり。この時よりの天皇は純然たる政治的中心の意義を有し、この国民運動の指揮者たりし以来現代民主国の総代表として国家を代表する者なり。すなわち維新革命以来の日本は天皇を政治的中心としたる近代的民主国なり。何ぞ我に乏しきものなるかのごとくかの「デモクラシー」の直訳輸入の要あらんや。この歴史と現代とを理解せざる頑迷国体論者と欧米崇拝者との争闘は実に非常なる不祥を天皇と国民との間に爆発せしむるものなり。両者の救うべからざる迷妄を戒しむ。


北一輝「日本改造法大綱」より:http://dokusha.hp.infoseek.co.jp/kojima/k013.html

 日本の国体は三段の進化をしてきたので、天皇の意義も又三段の進化をしてきた。第一期は藤原氏より平氏の過渡期の専制君主国時代である。この間は理論上天皇はすべての土地と人民を私有財産として所有し、生殺与奪の権を握っていた。第二期は源氏より徳川氏に至る貴族国家時代である。この間は各地に群雄割拠して、その範囲において土地と人民を私有し、その上に君臨した幾多小国家、小君主として交戦し連盟したものである。従って天皇は第一期の意義に代えてこれら小君主の盟主である幕府に光栄を加冠する羅馬法王として、国民信仰の伝統的中心としての意義を有していた。この進化は欧州中世史の諸侯国、神聖皇帝らと似たところがある。第三期は武士と人民の人格的覚醒によって、各々その君主たる将軍、又は諸侯の私有より解放されようとした明治維新革命に始まる民主主義国時代である。この時よりの天皇は純然たる政治的中心の意義を有し、この国民運動の指揮者であり、それ以来現代民主国の総代表として国家を代表する者である。即ち維新革命以来の日本は天皇を政治的中心とした近代的民主国である。どうして我が国に不足があるものの如くに、かのデモクラシーの直訳輸入の必要があるのか?この歴史と現代を理解しない頑迷国体論者と欧米崇拝者との闘争は、実に非常な不祥を天皇と国民の間に爆発させるものである。国体を理解せずに国体を誇るのは決して国民的自尊心ではない。