国際エイズ月間・日仏交流企画シンポジウム「これからの多様な性&家族&ライフスタイル」 参加

沸騰するフランス 暴動・極右・学生デモ・ジダンの頭突き東京神田の駿河台にあるアテネフランセで開催された国際エイズ月間・日仏交流企画シンポジウム「これからの多様な性&家族&ライフスタイル」に行ってきました。登壇者は以下の通り。

当シンポジウムは僕にとっては知らなかったことが多く、大変学びの多いものになりました。特に上川あや区議のお話にはいたく感銘を受けました。そして自分が何も知らなかったことを思い知らされました。


※要注:以下のものは会場で配布された資料をもとに、私が見聞きして印象に残ったことを書き留めたものであり、発言者の真意を正確に反映しているとは限りません。

赤杉康伸、石坂わたる:『パートナーシップ制度と日本』

世界の同性パートナーシップ制度・同性婚制度について
  • 同性婚制度」と「同性パートナーシップ制度」の違い
    • 同性婚制度の場合、男女間の婚姻制度に同性パートナーシップを当てはめて整備。
    • 同性パートナーシップ制度の場合、男女間の婚姻とは別の制度として整備。
    • 双方とも基本的には当事者間の法的・経済的な保証が目的。
    • 加えて同性婚だと(ある程度の制約があるものの)養子縁組が手続で可能。国籍の取得が出来る。
  • 各国の制度
  • 日本政府の態度の一例
    • カナダではカナダ国籍を持たない/永住権を持たない外国人でも同性婚が可能。
    • カナダで婚姻をする場合、誰とも婚姻をしていない証明書を自国から取得しなければならないが、日本政府は同性婚目的でその証明書を発行しないと決定している。
    • カナダで同性婚をしても日本国内では無効。
  • 訴訟の積み重ねで制度が動いた例
ドメスティック・パートナーズについての日本における現状と今後の見通しについて

日本国内では具体的な立法の動きはないが当事者からの法整備の機運が高まっている。

  • 同性婚、ドメスティック・パートナーズ法への機運、ニーズ
    • 精神的効果、感情的安全
    • 現時点での生活(主に経済的な要素)における保障
      例)税制、社会保障制度、民間・企業における社内福祉
    • 将来(老後)における保障
      例)看護・面接権、医療決定権、祭祀権、共有財産相続の問題
  • 現状における法的な代替手段
    • 養子縁組制度
      パートナーが親子関係を結ぶことで法律上の家族として権利保障
    • 公正証書
      公証人の作成する公文書に(相互委任の形で)法律行為その他私権に関する事実を記載
    • 成年後見制度の任意後見人
      判断能力が不十分な状態になった場合に備えて、生活・療養・看護・財産管理等の代理権を与える任意後見契約
  • これからの取り組み
    • 政治的取り組み
      • 同性パートナーシップの法的保障に関する問題の可視化
      • 近年の上川あや世田谷区議、尾辻かな子大阪府議といった当事者議員の登場
      • 立法・行政に対するロビイング活動の必要性
    • 法的取り組み
      • 法的に不利益を被っている具体的な事実につき、訴訟等を提起
    • 民間・企業における取り組み
      • 企業内における同性パートナーシップの制度的保障(家族手当、健康保険等)
      • 同性カップルを対象とした商品、サービスの開発・提供

及川健二:『虹色の社会〜フランス同性愛事情〜』

ゲイ@パリ 現代フランス同性愛事情

  • フランスに2004年7月〜2006年3月に滞在し、『沸騰するフランス 暴動・極右・学生デモ・ジダンの頭突き』と『ゲイ@パリ 現代フランス同性愛事情』を刊行。
  • 同性愛者をとりまく環境はその社会の成熟度を示すリトマス試験紙になると考えている。成熟した社会では同性愛者の権利が擁護され、全体主義の国では同性愛者は抑圧・排除される傾向にある。
フランスにおける同性愛者をとりまく環境
  • フランスではゲイ雑誌『テテュ』が駅や街頭のキヨスクで一般紙と並んで販売されている。その雑誌に大統領や首相のインタビューが掲載されたりもする。
  • パリ市長・ベルトラン=ドラノエ氏は男性同性愛者(ゲイ)。1998年上院議員だった頃にテレビ番組でカミング・アウト、2001年4月に市長に当選。パリ市民は彼がゲイであると分っていて投票した。
  • 異性・同性カップルが結べる準結婚制度パクス(PACS)が1999年に成立。背景には90年代前半に同性カップエイズ、生活保障、法的保障の問題が浮上したため。
フランスにおける同性愛と世論
  • 2006年11月の調査:「同性カップルの結婚合法化」に賛成62%、反対37%
  • 2006年の調査:「もし自分の子供が同性愛者だったら・・・」とフランス人1000人に質問。
    • 「ショックだ」:9%
    • 「どうってことない」:32%
    • 「気にはなるけど当人のしたいようにさせておく」:51%
  • フランスでは極右政党(国民戦線)支持者ですら71%が「同性愛という生き方は受け入れられる」と回答
  • 【参考】アメリカでの2004年の調査:『同性カップルの結婚合法化』に賛成25%、反対66%、共和党支持者は反対80%
ポストモダン右翼
  • デンマークとオランダでは同性愛者の人権に寛容な社会を重視するゆえに、同性愛や自由を認めないイスラム系移民は排斥すべきという「人権派右翼」が台頭。
  • 自由や多様な権利を擁護するために移民排斥を叫ぶという現象が発生。
2007年大統領選挙&下院議員選挙

大河原雅子:『私のマニフェスト

  • 93年から3期連続都議会議員、2007年参議院選挙に民主党から出馬予定。
  • 前所属(代表)の『東京・生活者ネットワーク』は地盤・看板・カバンがない女性を議会に送り出すことを目的に活動。
    • 日本は世界的に見て女性のエンパワーメント指数は88か国中43位と低位。
    • 日本は国民の教育水準も経済水準も高い豊かな国だが、女性の占めているポジションはまだまだ男性と対等とは言いがたい。
    • 日本社会は「健常者で大人の男性」に仕切られてきた社会。そこに当てはまらない人々の声を社会に反映するために活動。
  • 国会議員に立候補する理由として、国の動きはまだまだ男性中心なところがあるので変えていくのが目的。
    • 年金問題を見てみても、(働いていても)女性が相手の男性によって加入する年金制度が異なってくる(世帯単位となる)。
    • 制度的な差別を解決するためにも、世帯単位ではなく個人単位で権利を保障し、個人が生まれや属性で差別されず、持って生まれた個性が尊重され、自立を促進できる制度に変えていくべき。自立した個人たちこそが多様な価値観の中で共同・共生できるのでは。

宮台真司:『成熟社会をどう生きるか〜何がカッコいいのか〜』

  • 社会が良き社会の到達点のイメージを共有できたとして、どういった手段・経路でその到達点へと近づけることができるか。
  • 政治家は人々がカッコいいと思うように振舞う。国民が排除的であること/包摂的であることのどちらをカッコいいと思うかが政治家の振舞を決める。
  • 日本は後発近代化国として出発。近代化の過程であえて個人を共同体から引き剥がし不安にした上で虚構の共同体に糾合するというメカニズムを採用して産業化してきた。
アメリカはなぜ全体主義的か
  • アメリカは旧連合国、自由を旗印に戦争を行ったりする国。
    • リバタニアニズム:自由こそが個人の利益であると主張。再配分や規制を否定。
    • リベラリズム:人々が自由であるための前提を確保することが重要であると主張。スタートラインを揃えるための再配分や規制は肯定。
  • しかし「人々が自由であるためにはある前提が確保されなければならない」という点は共和党的発想にも見られる。皆が自由に振舞うための前提を崩すものを徹底排除しようとする。
  • アメリカは自由の前提を守るという口実で全体主義的な義務の遂行を要求する社会。
ヨーロッパの発想
  • ヨーロッパは基本的には中間集団的な社会。階級集団・職能集団・地域集団などを信頼している社会。人々にとっては国家の存在よりも先に中間集団が存在。
  • フランスではなぜ寛容であることがカッコいいか。宗教で言えばカトリシズムの伝統。中間集団的な社会であることが重要。国家という枠内で中間集団が共生している中で排除的に振舞ったり他の中間集団を排除しようとする人間はダメであるという発想になりやすい。
  • しかし自由を破壊する自由は「ある程度」を越えると認められないという「公安の逆説」が伝統的に存在する。その「ある程度」の基準をどう設定するかによって、中間集団の共生を主張しているようで排除的になるという例が出てくる。
全体主義と家族の問題
  • 家族とは何なのか社会学では一律な定義は存在しないが、社会学パーソンズは最終的に「子供が育つための親密な人間の集まり」という機能と「成員の感情的安全を保障する」機能だけは家族的なるものに将来にわたって残ると考えた。パーソンズの立場が「機能主義」であったがゆえに、その結論は非常にリベラル。
  • 昔ながらの伝統的な家族があるとして、社会環境が変化して伝統家族が営めなくなる人々が出てくる場合、
    • なんとしても伝統家族を復活させようとして人々を抑圧・排除したりする立場を「保守」と呼ぶべきなのか。
    • それとも社会の変化に対応して昔とはちょっと違うけれども「感情的安全」と「子供の社会化」という最小限の機能を満たすような場であればよいとするか。
  • 前者を「典型家族」、後者を「変形家族」と言う。
    • ヨーロッパは変形家族を選んだ。これまで家族と呼ばれてきたものの最低限不可欠な機能を残していれば、それを「家族」として保障することは社会政策的に正しいという立場を選択した。
    • 日本の場合は、「保守」と呼ばれる人々によき秩序・先験的な家族イメージが存在しており伝統家族・伝統的な秩序を乱すのはまかりならんと主張し、ジェンダーバックラッシュが起こったりもする。
  • もはや一部で機能しなくなった伝統家族のみに固執することがはたして保守か、むしろ人々に必要な「感情的安全」と「子供の社会化」の機能を社会的文脈に合わせて確保しようとするのが保守ではないか。今日ある家族が昔と形が違っていたとしても家族的であると考えるべきではないか。そういうい人間が日本でなかなか生まれてこないのはなぜか。

上川あや:『沈黙から発言へ〜カムアウト議員の誕生とその後〜』

出馬の経緯
  • 議員になるまでは民間企業で働いたが、かつて男性であったことは隠していた。
  • 雇用保険労災保険・会社の健康保険組合・年金制度すべてに性別がついてくるため、一度も正社員になったことはなかった。病院や選挙に行くと本人かどうか疑われれた。
  • LGBT性的少数者)の人々はイレギュラーな存在として社会の制度の枠組みに入れない。社会の仕組や意識が変わらなければ自分が自分であることを言葉にすることすら難しいと感じた。
  • 2003年以前は日本では戸籍の性別を変更することが許されなかった。最高裁判所まで争ってもすべて却下、理由は変更する法律がないから。
  • 行政窓口で各種書類の性別を変更してもらおうと思っても法律・通達・前例がないの一点張り。
  • 立法府に行き、法律を作ってほしいと頼みに行ったが会ってくれる議員はほとんどおらず、関係者に資料を渡すだけ。その後は音沙汰なしの状態が続いた。
  • 家西悟議員が初めて会って話を聞いてくれて「社会の関心が高まらないことには議員も動かない。姿が見える訴え方、声が聞こえる訴え方が必要」とアドバイスをもらった。
  • 誰かが姿を現し声をあげるリスクを引き受けなけと、社会ではいないことにされてしまう自分たちは幸せになれないと感じていたため立候補を決意。
選挙、当選、その後
  • 街の最初の反応は物笑い・嘲笑。
    • 「私は女性として暮らしているけれども戸籍の上では男性です」と訴えると、誰もが振り返り好奇の目で見れた。
    • 「親はどういう育て方をしたんだ」「社会がどうのこうのではなくあんたがおかしい」と罵られたこともあった。
  • 応援してくれる人々もたくさん存在。
    • 地方から200人もの人がボランティアで選挙応援。同性愛者の人たちがこっそりと応援メッセージを伝えてくれた。
    • 結果、5000票弱を得て当選。
  • 社会の中で生きにくい人々の声を代弁しようと様々な活動をしている。
    • 当選後に国会で性同一性障害について議員立法の動きがあり、100名以上の国会議員に直接話をし立法化の動きに繋がった。
    • 性同一性障害特例法が成立し、一定の条件付で性別を変更することができるようになった。ようやく区議会や行政でも性同一性障害者への対応についての動き始めた。
    • しかしまだ同性愛については議論が進まない。
  • 役所は姿が見えない声が聞こえない存在はいないものとして扱う現実がある。
    • 姿が見えない存在に対して人をつけ予算を使うということはしない。
    • 怖いから黙っている気持ちはわかるが、黙っていて自然に棚からぼた餅が降ってくることはない。
  • 問題が可視化することで受け止めてくれる人々がいることも訴えていきたい。
  • 海外の会議に呼ばれるようになり、日本と海外の意識の差も見えてきた。ヨーロッパでは同性愛・バイセクシャルの人が公的な場で発言をしている。日本でも声をあげられるようになってほしい。

パネルディスカッション

  • Q.日本では多様性にアレルギー的反応を示す人が少なくないが、多様な幸せの共生が実現する成熟した社会になれるか
    • 近代化が進む中で共同体が空洞化したのち、企業が感情的安全を提供してきたため企業へのロイヤリティが高かった。
    • 92年の平成不況の深刻化、雇用慣行の変化から企業が感情的安全を提供する場ではなくなった。
    • 企業共同体の空洞化によって不安になった人々を利用して政治も経済も新たなるコミットメントへと動員しようとしている。日本では繰り返し行われているメカニズム。
    • 日本では何がカッコいいかという感受性の鋭敏さが存在。何がカッコいいか示すためにはロールモデルが必要。
    • カミングアウトした議員が登場することや映画・ドラマで取り上げられることが意味を持つ。
  • Q.日本では芸能人などで同性愛者は登場しているが政治的になぜ同性愛者の問題が重視されないのか。
    • 日本では同性愛者が身近に見えていない。文部科学省教科書検定で、海外の家族形態の紹介で同性カップルという家族形態や一夫多妻の家族形態が注として紹介されたいたが、日本に馴染まないという理由で通らなかった。
    • 行政にとっては海外の好ましくない事例であり、これまで存在しないしこれからも存在してもらっては困るという風に捉えている可能性が高い。
    • 日本では同性愛者が行政や政治の場にアクセスしていくことが少ないこともある。トラブルに巻き込まれたくないということで政治にかかわりたがらないこともある。
    • セクシャル・マイノリティが一人の国民・有権者として政治家・行政を利用する感覚が必要。
    • 政治家からは有権者として見えていない可能性が高い。最後は顔が見えて有権者として動かないと社会は動かない。

バックラッシュ!  なぜジェンダーフリーは叩かれたのか?

    • 顔が見えることが政治的によい結果をもたらすためには、多様性が自分の幸せに役立つと思える人間が多くないと難しい。そう思えるには所属先が存在し感情的安全が確保されていなければならない。
    • むしろ多様性は自分を脅かすという人間が多い場合、顔が見えるとバックラッシュが起こりやすくなる。感情的安全が存在しない人間はそれを利用されて新たなる人為的コミットメントに動員され、顔が見える象徴的な存在を排除する方向に動員されやすい。
    • 包摂が自分を脅かすと感じる人間が多いと包摂のためのメッセージがバックラッシュ的な排除行動を起こすという逆説が存在する。
    • 成熟した社会とは、自分としての自分は同性愛者は嫌いでも、同性愛者を差別したり権利を認めない社会はおかしいと、個人的実存と社会的公正の問題を切り離して考えられる人間が多い社会。
    • 自分の実存と社会の問題を直結してしまう人間は感情的安全がないと言える。こういう人がいるから社会が悪くなるというような仮想敵に対して簡単に動員されていまう。
    • 感情的安全が確保されている人間は、他人がどのように感情的安全を確保しようとしているかについて(いい意味で)無関心になる。自分は自分なので他者を排除する必要はない。

※要注:以上のものは会場で配布された資料をもとに、私が見聞きして印象に残ったことを書き留めたものであり、発言者の真意を正確に反映しているとは限りません。