映画『グッバイ、レーニン!』鑑賞

恵比寿ガーデンシネマヴォルフガング・ベッカー監督の映画『グッバイ、レーニン!』を見に行く。600万人を動員しドイツの歴代興行収入を塗り替えた本作品は、東京でも公開開始から1ヶ月経つにもかかわらず特に休日は全回満員ということを聞いていたので早めに行ってチケットをゲット。
舞台は、まだベルリンの壁が存在した東西ドイツの時代から始まる。夫が西側に逃亡してしまったため、教師として社会主義活動にのめり込む主人公の母親。そんな母親に育てられながらもベタに社会主義を信じられず反体制デモに参加してしまう主人公。母親はそんな息子の姿を見て心臓発作を起こして倒れてしまう。母親が昏睡状態の間にベルリンの壁は崩壊。社会主義体制は崩壊の一途。そんな中で母親が目を覚ますが、ショックが一番病状に悪いということで、息子はなんとか母親に社会主義体制が終わっていないことがバレないよう滑稽なまでに「社会主義の国」を維持させてゆこうとする。
象徴的なのは母親が健在時の家庭での一場面。外では軍事パレードが行われて部屋の中にも地響きが伝わってくる。しかし誰も外を見ようとはせずテレビでパレードの様子を見ている。のちに母親に虚構を現実だと思わせるときに使われる手段もテレビ。テレビの中で起こっていることこそが「現実」だったりする。
息子がやっていることは、社会主義政権が国民に対してやっていたことのアナロジー。そんなアイロニカルな構造が観客の笑いを誘う。しかし息子がやっているのは、あえてつく実現不可能な嘘。観客からすると、嘘をつかれている方(母親)は守られている弱者と見える。しかし優しい嘘をつかれている方はその嘘に気付いても気付いていないふりをして、守られているのはどちらなのか見ている方はわからなくなる。あえてつく実現不可能な嘘とは切実であり優しくもあり悲しくもある嘘なのだから。
変化への戸惑い、未来への不安と希望。ベルリンの壁崩壊や東西ドイツ統一がそこで生活していた人々にとっていかに凄い出来事だったかということもよく分かる作品。でも社会が変わっても心はそう簡単には変われない。それが喜悲劇を生む。文句なしに面白いおすすめの作品。