ロフトプラスワン『豪華3本立てで2003年を振り返る!』

さて納会のドサクサに紛れて、定時前にカイシャを脱出して新宿ロフトプラスワンへ。今日の企画は月刊『創』プレゼンツ『豪華3本立てで2003年を振り返る!』。
【司会】月間「創」編集長・篠田博之 公式HP:創出版

第一部

さくら出版漫画原稿流出事件の顛末

【出演】渡辺やよい(漫画家)、山本夜羽音(漫画家)
弘兼憲史氏の漫画原稿流出差止要求により有名になった漫画原稿流出事件について。
事の始まりはレディース漫画家の渡辺やよい氏の原稿がYAHOOのネットオークションに出品されていたと、彼女のファンからメールが来たことによる。渡辺氏は当初は1枚2枚の原稿がネットオークションに出ているだけだろうと思っていたらしいが、よくよく調べてみると原稿が作品単位で流出していることが判明。とりあえず競り落として出品者とコンタクトをとり、原稿の流出先を調べると、「さくら出版」という今ではすでにつぶれている出版社から原稿が古書店まんだらけ」で販売されていることが判明。まんだらけでは生原稿が数万枚単位で販売されているという現状だったらしい。渡辺氏はさっそく販売停止を求めるも、まんだらけ側は生原稿は廃棄物を買い取ったものであり盗品かどうかは区別がつかないためそれを証明しない限り販売停止はできない、との回答。原稿を流出させた出版社社長は負債返却のため原稿を売りに出したようだが、そもそも多くの出版社は漫画家の生原稿が漫画家に所有権があると考えていないようだ。渡辺氏は警察に出向くも警察も生原稿の扱いや所有権(漫画家のものか?出版社のものか?)ですぐに判断が下せないため動いてもらえず、弁護士を雇うのにも費用が甚大なため、原稿が流出している漫画家で漫画原稿を守る会を発足。
弘兼憲史氏の原稿も出回っていたため騒ぎが大きくなり、弘兼氏の場合はまんだらけ側と和解が成立(まんだらけの社長と知り合いなので特例で和解したらしい)。しかし大物以外の漫画家の現状は変わっておらず、現在に至るらしい。


話題はもうひとつ。東京都青少年健全育成条例について。渡辺やよい氏はレディース系のエロ漫画家、山本夜羽音もエロ漫画家なのだが、全国の自治体で青少年健全育成条例でエロ漫画をなんらかの形で規制しているようだが、ついに出版社の集まる東京で(10年前一度は阻止されたものの)条例化されようとしている。
山本夜羽音氏は条例の青少年問題協議会などを傍聴しているらしいのだが、条例化の理由の多くは最近の治安の悪化による不安から来るもので、何か対策をとらなければ不安な人々がとりあえず規制がほしいのでエロ漫画を標的にしているようだ。とりあえず規制ありきの議論が専攻しており、もうすぐ東京では夜間に16歳以下と成年がいっしょにいても罰則を受けるようになるかもしれないらしい。しかも16歳という設定は中学生以下はヤバいよね、という理由だけらしい・・・。規制をかけようとしている勢力の議論はかなり乱暴らしいが、まあ世論の治安悪化に対する不安から多数派になっているようだ。

講談社少年マガジン」副編集長大麻逮捕事件その後

【出演】久保象(フリーライター、元「少年マガジン」編集者)

2002年5月、大麻所持で逮捕され、講談社を懲戒解雇された久保象(ペンネーム)氏が登場。久保氏は捕まるまで10年ほど大麻をやっていたらしいが、「クスリやめますか?人間やめますか?」の世界ではなく、大麻をやっていたおかげでラブ&ピースだったらしい(笑)。なんでも日本の大麻はよくないらしく、オランダ・アムステルダムから苗を買ってきて栽培もしていたらしい。日本に出回っているものよりもいいものを作っていた自負があるらしく(笑)、「少年ジャンプの編集者よりはいいもの(もちろん大麻)を作っていましたよ(笑)」と言っていた。もちろん集英社の編集者が大麻を作っているわけがないが(多分(笑))、少年マガジンに関わっている人はかなり少年ジャンプに対抗意識があるのが垣間見れた。大麻所持で逮捕されたにもかかわらず、「大麻やめましょう」なんて一言も言わず(別に事件のことを反省していないわけではなかったけど)、大麻はすばらしさを解説してくれた(もちろん今はやっていないらしい)。最近増えている鬱治療も科学物質でできた薬よりも大麻のほうが効果があり、多くのクスリをやっている人も大麻が合法化されればそちらに切り替え、ヤクザなどの麻薬ビジネスも撲滅できる可能性がある、という面白い提案をしていた。今年9月、双葉社から実話体験をもとにした小説「ジャンキー編集者」を上梓したらしい。ちなみに久保氏は副編集長時代はグラビア担当であんまり漫画は読んでいなかったらしい。

第二部

田代まさし氏・生トーク

2001年12月に軽犯罪法違反容疑で逮捕され、その後覚せい剤取締法違反(所持、使用)で有罪判決(執行猶予3年)を受けた田代まさし氏の生トーク。僕は初めて彼を生で見た。
現在、執行猶予2年を経過し、多くのものを失い、復帰のめども立たず、今回のトーク開催も久しぶりなのでかなり緊張していると言っていた。
やはり世間の目の厳しさと家族別離が堪えるらしく、本人は陽気に振舞っていたが、話の内容はかなり悲惨だった。現在はアパートで一人暮らしで、家族とはたまに食事をとることがあるらしいが、そうすると週刊誌に撮られるらしく、子供との信頼関係がなかなか修復できないとのこと。また電車に乗っていてもヘンな目でみられるらしい。ロフトプラスワンは新宿・歌舞伎町にあり周囲にいろいろな勧誘のオニーサンがいるのだが田代まさしが通るとみな引いていったらしい(笑)。
現在は応援してくれる業界の人の下で実録ヤクザ系の映画の監督をやらせてもらっているようで、他にもお祭りとかで焼きそばを焼いたりしているらしい。で、多くの人が買ってくれるが、「なんかヘンなもの入ってるんじゃない?」というのがお約束のように聞かれるらしい。またテレビ局がその模様を取材に来るも、上の命令で放送されないらしい。復帰は難しいのが現状のようだ。
今、田代まさしが一番悩むのは、どこまではじけていいかまったくわからない、ということらしい。どうしてもネタをベタに受け止められるようだ。判決後、叔母の家に引きこもっていると、叔母から「たまには外出しなきゃ体に毒だよ。何か食べに行かないかい?」と言われたので、叔母を心配させないために、「しゃぶしゃぶ(笑)」と言ったら、めちゃくちゃ怒られたらしい(笑)。田代まさし的にはギャグでタイマーを扱っている人に「俺の前でタイマー(大麻)の話はするな?!」と言ってもみんなに引かれるらしく、メディアでそんなギャグをやれば「田代まさし、反省せず」と書かれる恐れがあるので、コメディアンにもかかわらずギャグが不反省ととられる現状に困っているらしい。
会場では逮捕前に収録された2002年新春かくし芸大会で放送される予定だった田代まさし出演場面の放送や逮捕後に雑誌の付録で作成したギャグビデオの放送があったり(非常にくだらなかった(笑))、質問コーナーでは「現在、志村けんさんとはどのような関係なんですか?」という核心を突く質問がでたりした。興味本位で見に来た人も多かったが(僕もその一人であることを否定しない)、復帰して有罪判決を受けても社会に復帰できることを見せて、多くの人に希望を与えてほしいという声もあり、盛り上がりもあったが非常に温かさもある企画だった。

第三部 ナショナリズムと海外派兵

イラクの現状と戦争取材

【出演】綿井健陽(フォトジャーナリスト)、中島多圭子(映画『TAIZO』監督、元・テレビ朝日アナウンサー)

まずは映画『TAIZO』の宣伝をきっかけに一ノ瀬泰造の話になり、従軍取材の話になってから、今年のイラク攻撃の従軍取材の話へ。

綿井氏はイラク攻撃後のイラクを取材しており、12月のニュースステーションで映像使われまくりの人。僕も見た映像がたくさんあってそれを取材してきた人だった。圧巻はオランダ軍司令官の散髪風景で、つい先日公明党党首の神崎代表がイラクサモア)を視察して、「オランダ軍の司令官は一人で散髪に出かけているくらい安全」と主張していたが、綿井氏の映像では、店の周囲に武装したオランダ軍兵士が取り囲んでいる場面が収録されていた。オランダ軍司令官は現地民と触れ合うため出回ることは多いらしく、その場合は常に武装した兵士の警護があるようだ(よく考えれば当然だ)。そもそも綿井氏がこの映像を撮ったのも、別にオランダ軍司令官のスケジュールを知っているわけでもなんでもなく、ただ街に武装兵がいたので取材してみたら出くわした光景だったらしい。もうひとつ圧巻なのが、自衛隊歓迎横断幕について。国会ではあの平沢勝栄氏とかが「サモアには自衛隊を歓迎する横断幕がある」と主張していたらしい。綿井氏の収録した映像にも、アラビア語の横断幕の下に「自衛隊歓迎」の文字が日本語で書かれている。しかしアラビア語の意味は「日本人歓迎」。この日本語の文字は日本人記者が「通訳を介して」現地の人から日本語にしてほしいと要請され書いたものらしい。渡井氏はその書いた本人も取材しており、通訳が「Japanese Army」と言ったので「自衛隊」と書いたと認めたとのこと。明らかな誤訳だ。しかしその光景が国会の審議の場では政治的に最大限に利用される。どうしてもなにがなんでもイラク自衛隊を派遣したい人がいるのは確かだ。

ナショナリズムをめぐる議論

【出演】宮台真司社会学者)、鈴木邦男(元・新右翼、現・「一水会」顧問)、吉田司(ノンフィクション作家、三里塚闘争経験者(=左翼系))

イラク派兵の話の流れから、元新右翼の鈴木氏と元左翼活動経験者の吉田氏、そして社会学者・宮台氏を交えてトークがあるはずだったが、宮台真司は前のスケジュールの番組収録のために遅刻との一報が入る。ん?金曜日の番組収録?それってまる激トーク・オン・ディマンドじゃん(笑)。まる激ファンの僕としては我慢することにした。

鈴木邦男氏が面白いことを言っていた。戦後50数年たってから、左翼(運動)は死滅し、右翼は乗り越えられた、と。左翼運動が死滅したのはすぐ理解できるが、右翼が乗り越えられたとはどういうことか?それは僕たちがいま目にしている現状そのものだ。鈴木氏曰く、今や街角で右翼が拡声器で主張していることは「忠孝を大事にせよ」とか「国家を大事にせよ」とかで比較的穏健だが、市民活動(「新しい歴史教科書をつくる会」や「拉致家族会」)のほうがよほど過激なこと(北朝鮮に制裁せよ。日本は軍備せよ。核兵器を持つべきだ。・・・etc)を主張しているとのこと。市民社会のほうがよほど右翼より右傾化している現状があるようだ。

その現状に関して、吉田司氏は、戦前はナショナリズムといえば国家主義民族主義のことだったが、今では市民社会の利害代表としてのナショナリズム(災害と同感覚に国が断固として対処すべきだという主張)が勃興しているように見え、ナショナリズムの意味を考え直す必要があるのではないか?という主張をしていた。

そこでまた鈴木氏が最近逮捕されたいわゆる「建国義勇軍」メンバーに関して面白いことを発言。
鈴木氏は田中均氏や野中広務氏の事件が起こったとき、記者に犯人は誰でしょうと問われ、「この事件は右翼の人間ではなく、右傾化した右翼もどきの複数犯で、年代は40?50代で、生業をもち(警察が当初右翼を操作したが犯人が見つからないため)、しかも自営業で(事件が火・水に起こっているため)、読売新聞や産経新聞を読んでいる奴らだ(笑)と言っていたらしく、最後の項目は未確認だが(笑)あとはほとんどプロファイリング成功していたらしい。

その後、右翼と左翼の興味深い話を聞けたが、宮台氏が渋滞に巻き込まれなかなか来れず、そろそと終了の時間に。

そして終了予定5分前に宮台氏到着。それでも喋りまくる宮台真司(笑)。内容は21日のまる激公開収録でも語っていたことだったが、それに対して吉田氏が突っ込み始め、面白そうな展開になってきたところで終了・・・。また鈴木氏、吉田氏、宮台氏でイベントをやろうということでお開きとなった。


宮台真司の遅刻は残念だったが、盛りだくさんでなかなか濃いイベントだった。最後の企画は次回に期待。