生田武志、白石嘉治、杉田俊介トークセッション「野宿者/ネオリベ/フリーター」参加

「野宿者襲撃」論フリーターにとって「自由」とは何かネオリベ現代生活批判序説
 池袋のジュンク堂で開催された生田武志氏、白石嘉治氏、杉田俊介氏によるトークセッション「野宿者/ネオリベ/フリーター -アンダークラスの共闘へ-」に行って来ました。一応発売日はすでに遠く過ぎていますが生田武志氏『<野宿者襲撃>論』、杉田俊介氏『フリーターにとって「自由」とは何か』、白石嘉治,・大野英士編『ネオリベ現代生活批判序説』の発売記念とのこと。

メールで交流のあった初対面のid:junippeさんと事前に合流し、いっしょに参加しました。id:sarutoraさんも来場られていたようです*1


白石氏が司会の形で、それぞれの論者の方が「フリーター」「野宿者」「大学非常勤講師」という違う領域をテーマとしているが同じ問題を共有できるか、何らかの連帯・共闘にまで発展できるか、という問題提起をなされて、トークがなされました。


※要注:以下のものは私が見聞きしてきたことを書き留めたものであり、発言者の真意を正確に反映しているとは限りません。


まずは『<野宿者襲撃>論』を執筆された生田氏からの塾者問題の基本的な説明がなされました。知らないことだらけで驚かされました。

日本と世界における野宿者問題
  • 野宿者が現れ始めたのは1975年前後。高度経済成長が終了して慢性的に失業が発生。日雇労働の寄場周辺で労働者が恒常的に野宿をする状況が発生。その頃から野宿者襲撃事件も発生。
  • 80年代のバブル期に一時的に緩和されるもバブル崩壊後数千人の日雇労働者たちが野宿をする状態に。1990年代が野宿者問題が日本で社会問題になった最初の時期。
  • 1995年あたりから野宿者の中に日雇い労働者以外の人が増加。2000年を越えたあたりから全野宿者の半数以上は日雇労働者を経験していない人になった(野宿者問題の一般化)。
  • 近年は女性の野宿者と若者の野宿者が増加。年を追うごとに若年化が進んでいる(野宿者問題の欧米化)。
  • 日本の野宿者は全国で4万人。世界的には少ない数。アメリカではホームレスを経験した人が350万人(うち子供が135万人)。イギリス・フランスではホームレスが40〜80万人。それと比べると日本は驚くべき少なさ。欧米ではかなりが若者。
  • 社会現象については日本では20年遅れで欧米で問題化。80年代にイギリスで若者の野宿者化が社会問題になった。
最近の野宿者問題
  • 野宿者排除
  • 野宿者襲撃
    • 2005年10月に姫路で火炎瓶を使った野宿者襲撃事件が発生。
    • 襲撃事件は1975年以降起こっていて、毎年平均3名の野宿者が殺害されている。
    • 2000年以降から殴る蹴るの暴行だけではなく、明らかに死ぬ可能性のある方法での襲撃が起こっている。
  • 2003年のホームレス自立支援法以降、行政による排除のバイアスが高まるのと連動して野宿者の殺害を目的とするような襲撃も発生。
  • 襲撃は大人の世界がやっている合法的な排除の暴力的な形態であるという面があり、実質的には同じもの。
  • 襲撃を行う少年たちは必ずしもアンダークラスとは限らない。襲撃する少年のパターンは一定ではない。


杉田・生田両氏から野宿者問題とフリーター問題の接点が説明されました。

野宿者問題とフリーター問題の接点
  • 『<野宿者襲撃>論』は、野宿者問題とフリーター問題を媒介しており、フリーターを「多業種の日雇労働者」と考え今後フリーターが欧米を追う形で野宿者化する可能性を論じている。
  • 若年世代は親に資産があるなしに関らず日本の高度成長期の遺産への根拠のない期待を抱いているように感じられる。本当に直面して考えるべき問題があってもなし崩し的に漠然と問題を考えずに済む状態になってしまうのは問題。
  • 生田氏は日雇労働者の支援が社会とどのように関わっているか当初はよくわからなかったとのこと。しかし2000年ごろにフリーターとは日雇労働者と同じではないかと気付いたとのこと。
    • 日雇労働者は仕事があるときは日本全国・世界各国から呼ばれるが、仕事がなければ放り出され、使い捨ての人材としてうまい具合に利用されていた。
    • 日雇労働者は「いつクビになるかわからない」「社会保障が整備されていない」「病気になったら生活破綻」。これはフリーターも同じ。
    • 「長くいるところではない」「いつまでブラブラしているのか」「ちゃんとした仕事に就くべき」と日雇労働者にかけられる言葉は、フリーターの人が周囲から言われている言葉。
  • 現在の日雇労働者の野宿者問題はリハーサルであり、いずれ本番をフリーターがやる可能性がある。
社会保障の形態
  • 福祉のシステムは一般的に3つ。「市場(資本・企業)」「行政」「家族」。
    • スウェーデンは若者が貧困に陥れば行政がカバー。
    • 家族がセーフティネットとして機能する国は日本、イタリア・ポルトガルなどの南欧諸国。若者が失業すると家族の下にとどまるためホームレス化・野宿者化はしない。
    • アメリカ・イギリスでは若者は学校を卒業すると基本的に家を出る。仮にホームレスになったとしても家に帰らない。最近はアメリカ・イギリスでも家にとどまるケースが増え社会問題化。
  • 日本は福祉国家であったことはほとんどなく国民総生産比での社会保障費は先進諸国の中では例外的に低い。福祉は行政ではなく企業と家族が担っていた。
  • 今では企業は雇用者の福祉・生活保障の機能を喪失。一方的に家族が引き受けている状況。
  • 短期的には行政と資本の国民や労働者の使い捨てが酷いので何とかするよう要求すべき。
  • 長期的には「資本」「国家」「家族」ではない別のセーフティネット・人間同士の繋がりをどうやって構築するか/できるのかということが最大の問題。


また「自立」という現代のキーワードについて議論が交わされました。杉田・生田両氏とも最近の「自立」という言葉について様々な考察をされていました。

「自立」支援の潮流について
  • 最近行政のはやりに「自立支援」がある。ホームレス自立支援法や障害者の領域でも2006年4月から障害者自立支援法が施行された。その「自立」は経済的な自立であり就労的な自立に特化されている。
  • 1970年代からの脳性麻痺者を中心とする障害者の自立生活運動があった。
    • そこでは「自立」という言葉を非常にポジティブにとらえていた。
    • それは非常に複雑な意味を含んだ言葉で、親元でもなく施設に閉じ込められるのでもなく在宅で一人暮らしをしていてそこに(たとえ24時間でも)介助者をつけて生活したとしてもそれを自立生活と呼びうるという積極的な主張の形で考えられてきた(人によって様々な見解があり)。
    • 杉田氏は障害者の自立生活運動その他を考えることが現在のフリーターのライフスタイルを考えるときに、それぞれの個体性・個人性をどう獲得していくかという観点から参考になると考えているとのこと。
  • 野宿者問題にとっては2003年に成立したホームレス自立支援法が大きなターニングポイント。
    • 野宿者には自立してもらうため行政が支援するという発想。結果としてはシェルターや自立支援センターが全国にたくさんできた。
    • 自立支援センターからの就職率は5割。基本的に若い人や何らかの資格を持っている人が就職。野宿者の大多数である50代の人は行く価値がない。
    • シェルターや自立支援センターができて少人数の人は仕事を見つけて自立の道を歩んだがそれとセットで野宿者の排除が進行。
    • ホームレス自立支援法で言う「自立」とは野宿者を生活保護水準以下の環境で3ヶ月間仕事を探して見つけてもらおうというもの。
    • 従来の資本と行政の枠組を維持した上で野宿者に頑張ってもらって社会に復帰してもらおうというスタイル。
    • 野宿者問題や先進諸国で共通に現れるホームレス問題は極端な格差の拡大・貧困化が最悪の形として現れている面がある。これは構造的な問題であって、野宿に至った人たちの尻を叩いて職業訓練ハローワークに通ってもらって解決する類の問題ではない。
    • 構造的な変革が必要だが、ホームレス自立支援法の基づく思想はそのような構造的な変化や変革の兆しはまったくない。
  • ひきこもり問題の自立も重要。上山和樹氏(id:ueyamakzk)など当初からひきこもり問題で発言していた人たちは社会における労働の意義と自分の問題の接点を必死に問うているが、
      • いわゆるひきこもりの専門家と称する人たちはそのような問題に対してほとんど発言しようとしない。
      • マジョリティのひきこもり論は従来型の会社なり従来型のフリーターに復帰すれば万々歳という発想。
  • 一連の自立支援法の「自立」という言葉について、障害者の自立問題と野宿者の自立問題が全く違うものとして起こっているはずはなく同時に見ていく視点が重要。障害者の自立を学ぶことでフリーターの自立生活のイメージを鍛えていくことに繋がる。
    • 自立を考えるときに、強い個人のモデルではなく、もう少しゆるくそれほど強い倫理的なバイアスをかけないで積極的なイメージに持っていけるか。
    • 障害者の自立では行政との交渉などもあり、与えられた現状の中で清貧生活を送るというようなものではなかったはず。
好景気とフリーター・野宿者
  • フリーター・ニート・野宿者の問題は経済的好況の中で語られなくなる可能性がある。
    • 経済的に好景気であれば非正規雇用が問題になるはずがない、
    • 富める者が富めば一見格差が広がるように見えても貧しい者にも自然に富が浸透するという考え(トリクルダウン理論)など。
  • しかし景気が回復する中で野宿者が増えている。
    • 現実問題として欧米の例を自分たちの将来を見るという意味で参照すると、アメリカにしてもイギリスにしても経済成長がある程度順調にいったとしても野宿者・ホームレスは劇的に拡大する一方だった。
    • 何らかの意味での再配分が必要なことは間違いないとのこと。
  • 国境なき医師団は大阪の野宿者の置かれている状況をデータ化して国際比較したところ、大阪の野宿者の医療状況は海外の難民キャンプのかなり悪い部類に属するとされた。第一世界のど真ん中に第三世界が広がっている状況。
  • 日本では貧困問題における感性が低い。怠惰・怠け者・努力すればなんとかなるという意識に押し込められてしまっている。
ジェンダー問題との関係
  • 現在の「自立」というテーマはそれぞれの状況・問題を経済的な問題に押し込めてしまうが、昔から女性はそうだったのではないか。
  • 不安定就労問題・フリーター問題は基本的に女性労働問題。
    • フリーターの6割、派遣労働・パート労働のほぼすべてが女性であることを考えれば、不安定就労問題は事実上ジェンダーの問題。
    • 女性の労働問題は70年代中盤から始まっており、90年代以降も女性の不安定就労が拡大したがそのことはあまり論じられていない。
  • フリーターの社会問題化の理由はフリーターに男性が含まれ始めたから。男性が不安定就労で生きざるを得ないことが初めて認識された結果、男たちがあわててフリーター問題を社会問題としたに過ぎない。
  • ジェンダー問題抜きの不安定就労問題の議論は無効では。


※要注:以上のものは私が見聞きしてきたことを書き留めたものであり、発言者の真意を正確に反映しているとは限りません。


今回は大変勉強になりました。生田氏の『<野宿者襲撃>論』を帰りに購入して読み始めました。今回のレポで興味を持たれた方はぜひ読んでみてください。

追記:2006-05-24

イベント当日お会いしたid:junippeさんが感想を書かれています。